
健康経営シリーズ 第4回(全8回)
理学療法士として36年間、働く人の身体と向き合ってきた経験から、企業の健康経営について考える全8回の連載です。
机と椅子を少し変えただけで、身体が楽になることがある
「治療を受けると楽になるのですが、仕事をすると、また痛くなります」
患者さんから、このような話を聞くことがありました。
そのようなとき、私は普段の仕事について詳しく聞き、可能であれば、職場の写真を撮ってきてもらったり、作業を再現してもらったりしました。
すると、身体を診ているだけでは分からなかった負担が見えてきます。
モニターを見るために首を回し続けていた
ある方のモニターは、身体の左斜め前に置かれていました。
仕事中は、常に首を左へ回した姿勢になります。短時間なら気にならなくても、毎日長時間続けば、首や肩の同じ場所へ負担が集中します。
また、椅子が低く、背中を丸めていた方もいました。
背が高く座高も高い方では、一般的なデスクが身体に対して低すぎることもありました。ノートパソコンの小さな画面を、前のめりになってのぞき込む方もいました。
この場合、「姿勢をよくしてください」と伝えるだけでは十分ではありません。
モニターを正面へ移す。椅子の高さを見直す。画面を見やすい位置へ上げ、必要に応じて外付けのキーボードやマウスを使う。
本人を設備に合わせ続けるのではなく、設備を本人に合わせる必要があります。
工場で同じ方向へ身体をひねっていた
工場で働いていた方では、正面で作業した後、横にある物を取り、別の場所へ移す動作を繰り返していました。
そのたびに、足を同じ位置に置いたまま、上半身だけを同じ方向へ回していました。
そこで私は、上半身だけをひねるのではなく、物を取る方向へ足も向け、身体全体の向きを変えるようにお伝えしました。
ただし、作業場所が狭ければ、本人が足を動かしたくても動かせません。
身体の使い方を伝えることと、その動きができる作業スペースを確保すること。その両方が必要です。
スーパーのレジでも同じことが起きていた
スーパーのレジで働くと腰が痛くなる、という方もいました。
商品を受け取り、読み取り、かごへ移すたびに、足を動かさず上半身だけをひねっていました。
そこで、商品を移す方向へ足も一緒に向けるようお伝えしました。
また、レジの構造によっては、身体をひねる方向がいつも同じになります。可能であれば、反対方向へ動くレジにも入れてもらい、同じ方向の動作ばかり続かないよう、職場へ相談する方法もお伝えしました。
本人の工夫だけでは変えられない部分には、職場の理解と協力が必要です。
共通していたのは、本人が環境に合わせていたこと
モニターが左にあれば、首を左へ回す。机が低ければ、背中を丸める。物が横にあれば、腰をひねる。
人の身体には環境に合わせる力があるため、その場では仕事ができます。
しかし、その小さな無理が毎日続けば、同じ筋肉や関節に負担が集中します。
本人の姿勢を責めるのではなく、「なぜ、この姿勢や動きになっているのだろう」と考えることが大切です。
小さく変えて、本人に確かめる
モニターを正面へ移す。椅子の高さを調整する。足元を片づける。作業する物の向きを変える。足ごと方向転換できるスペースを確保する。
まずは、できることを一つ変えてみます。
そして、
「身体は楽になりましたか」
「仕事はしやすくなりましたか」
「夕方の疲れ方は変わりましたか」
と確認します。
身体、環境、仕事の進め方を一緒に考え、変えられることから変えていく。
それが、働く人の不調を予防する健康経営につながると考えています。
※本文は、個人が特定されないよう、複数の臨床経験をもとに再構成しています。
参考資料:
この記事を書いた人
理学療法士として36年間、大学病院、整形外科病院、整形外科クリニックに勤務。骨・筋肉・関節などの運動器疾患を専門とし、腰痛、肩や膝の痛み、けがや手術後のリハビリテーション、職場復帰などに携わってきました。
クリニックでは、身体の痛みに加えて、不安や気分の落ち込み、職場の人間関係などの悩みを抱える方にも数多く対応。身体だけでなく、仕事の環境や心の状態も含めて考えることの大切さを実感してきました。
現在は北海道・札幌市を中心に、これまでの臨床経験を生かし、働く人の身体づくりと企業の健康経営を支援しています。
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